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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
)
と愛吉が云うんです、先生。
三宜亭で、夢中ながら目を光らせて、鼻をフンフンとやって、
(私あ、固唾を飲んでた処だ。符帳が合ったから飛出した、)と拳固で自分の頬げたを撲りながらいうんでしょう。
いや、傍聞きをした山の井光起、こりゃもう、すぐに電話でお呼び申した。その驚いたより、十層倍、百層倍、仰天をしたのは梅岡薬剤で、
(国手の前じゃ申しかねるが、僕はまた、三宜亭まで是非とお夏さんに呼出されて、実は相済まんが、友達に頼んでちょいと抜け出して来ると、いつも世話になると礼をいって、お小遣が沢山あるから御馳走をするかわり、済みませんが、姫様におっしゃるように、奥さん、といいながら歩行いて下さい。貴下を、旦那さま、とでも、こちの人とでもいうわ。と大呑気だから、愉快い、と引受けたんで。あれから東照宮の中を抜けて、ぶらぶらしながら谷中の途中、ここが御註文と思うから、多勢人の居る処じゃ、奥さん――山の井の奥さん。時々、夫人――などというと、顔を赤くなすったッけ。
岡野へ寄ろうと、くらがり坂へかかった時は、別にそこで、という誂えがあったわけではない。
いっそ、特にあの坂で、とでもいうことなら、いかにお夏さんが神色自若としていたから、といって、こちらが呑気だからといって、墓といい、森といい、暗さといい、たといそこまでは上の空