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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

愛吉は掻巻の裾に跪いて、

(先生、酔ったんで、)

(ああ、ちと酔ったと見えるが、女も、白酒を小さな猪口で寐るようだと真に結構だ、)

(愛吉、)

(へい、)

(男も君のように飲んじゃ困るな。)

納豆を売るわけにも行かず、思わぬ処でぎょっとする。

(ちっと控目にしないか、第一身体が堪らない。勝山さんも大層気にかけて心配してるぜ。

待て、)

といって、尻ッこけに遁げ出そうとするのを呼び留め、学士は黄金時計をちょいと見た。

(少し待て、)

そのまま黙って、その微塵縞一楽の小袖の膝に、酔はさめたが、唇の紅も掻巻にかくれて、ひとえに輪廓の正しき雪かと見まがう、お夏の顔を熟と見ながら、この際大病人の予後でもいいきけらるるを、待つごとく、愛吉呼吸を殺して、つい居ると、

(こっちへ来い、)

(ええ、)

(ちっと膝をかせ。)

(先生、飛んだ御串戯もんですぜ。)

(いや、私は時間の都合がある、婆さんは片づけものがあるだろう、すやすや寐ているから、可いか、密とだ、)静かな膝は、わななく枕と入れ交った、お夏の夢は、月に月宮殿をあくがれ出でて、廃駅の時雨に逢うのであろう。

立って、衣紋を正した時、学士の膝は濡れていた。