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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
が何だか、卯之吉の門から俥が行ってしまったのが、なごり惜くって、今にもその姿が見たくてならぬ。
おかしいね。
何も三年越見なかった人なり、殊にそういう知己の婆さんが在って見れば、これをつてで、また余所ながら尋ねられないこともないが、何となく、急に見たい。
そこででがすよ。
茶を入れかえる、といったのを振切って出て、大塚の通りから、珍らしく俥を驕ると、道の順で、これが団子坂から三崎町、笠森の坂を向うへ上って、石屋の角でさ。谷中の墓地へ出たと思うと、向うから――お夏さん。
ちと柄がかわり過ぎた。私、目についているのは、結綿に鹿の子の切、襟のかかった衣に前垂がけで、絵双紙屋の店に居た姿だ。
先刻の文金で襟なしの小袖でさえ見違えたのに、栗鼠のコオトに藍鼠のその頭巾。しかもこの時は被っていました。
おまけに、並んで歩行いているのが、茶の中折で、絣の羽織、粋づくりだけれど、お商売がら、どこか上品に見える、梅岡薬剤でがしょう。
私もし、青柳町へ寄らないで、この体を見ると、いよいよ戻橋だ。紅葉の下で生血を吸う……ね。
そのなりで。思いがけない二人づれなり、ちょいとはお夏さんと見えないけれど、そこは私、通から一目で見て取った、俥を下りて、くらがり坂まであとをつけたですよ。