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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
「ああ、熱、」
驚破と二人。
「何て暑いんでしょう、私はどうしたの。」
というのが、耳許に冴えた調子で聞えながら、しかも幽に、折から風が颯と添って、次第々々に大空へ遠く消えて行くようになって、また寂とした。
雨はいよいよ降るのである。時もわきまえずなるまでに、夜は次第に更けるのである。
「愛吉、愛吉、」とお夏が呼んだ。
遠山は面を背けた。
「愛吉、苦しいから殺しておくれ。」
しばらくして、
「早くしておくれよ。」
答うるものはないのである。
「国手、どうすりゃ、可いの。私は国手の奥さんになりたいの、」
優しい声で、
「してあげますよ、」というのが聞えた。
「だって奥さんがあるんですもの。」
「いえ、もうありません、貴女に生命を救われて、山河内の家へ帰りますよ。」
遠山も耳を澄す。
お夏の声で、
「でも不可いの、私は、愛吉が可愛くッて可愛くッて、」
廊下の外でもはらはらと落涙する。
「可愛くッてならないの、だから奥さんになって殺されたんだわ、なぜこんなに暑いの、なぜ熱いの、私のした事が悪いから、あの、それで、ひどいの、どうすりゃ可いんですねえ。」
答うもののあらざるを見て、遠山金之助堪えかねたか、矩を踰してずッと入った。