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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
」
「へい、それで何ですか、こっちの方へお引越しなすったんですかね。」
「いいえ、三年前の秋の事さ、その後御新姐さんもお亡なんなすったそうだもの、やっぱり御病気の処へ、そんなこんなが障ってさ。
旦那様もまたそうなんだよ。火事で、それだけの身代が煙になった御心配から起った御病気だろうじゃないか。だからほんとに火は祟っているんだよ。」
と何となく声も打沈んでいったのであった。
この扇屋の焼けた時、新聞に黒くなって描かれた焼あとの地図も、もうどこかの壁の破れに貼られたろう。家も残らず建揃った上、市区改正に就て、道は南北に拡がった、小路、新道、横町の状も異ったから、何のなごりも留めぬが、ただ当時絵草紙屋の、下町のこの辺にも類なく美しいのが、雪で炎を撫ずるよう、見る目にも危いまで、ともすれば門の柳の淡き影さす店頭に彳んで、とさかに頬摺する事のあった、およそ小さな鹿ほどはあった一羽の軍鶏。
名を蔵人蔵人といって、酒屋の御用の胸板を仰反らせ、豆腐屋の遁腰を怯したのが、焼ける前から宵啼という忌わしいことをした。火沙汰の前兆である、といったのが、七日目の夜中に不幸にして的中した事と。