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しきぶこうじ
式部小路
泉 鏡花
「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页
当夜の火元は柳屋ではなく、かえってその不祥の兆に神経を悩まして、もの狂わしく、井戸端で火難消滅の水垢離を取って、裸体のまま表通まで駆け出すこともあった、天理教信心の婆々の内の麁匆火であった事と。
それから、数万の人ごみ、軍のような火事場の中を、どこを飛んだか、潜ったか、柳屋の柳にかけた、賽が一箇、夜のしらしらあけの頃、両国橋をころころと、邪慳な通行人の足に蹴られて、五が出て、三が出て、六が出て、ポンと欄干から大川へ流れたのを、橋向うへ引揚げる時五番組の消防夫が見た事と。
及び軍鶏も、その柳屋の母娘も、その後行方の知れない事とは、同時に焼けた、大屋の隠居、酒屋の亭主などは、まだ一ツ話にするが、その人々の家も、新築を知らぬ孫が出来て、二度目の扁額が早や古びを持って来たから、さてもしばらくになった。
「じゃ、お内のお嬢さんは柳屋さんというんですね、屋号ですね、お門札の山下お賤さんというのが、では御本名で。」
「いいえさ、そりゃ私の名だあね。」
「おかみさんの? そうですかね。」とちとおもわくのはずれた顔色。こんなのはその手に結んだ紅毛糸の下に、賤という字を書いてはってあろうも知れぬ。