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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

「だって、私だって名ぐらいはあろうじゃないか。」と鉄漿つけた歯を洩らしたが、笑うのも浮きたたぬは、渾名を火の玉と聞いたのが余程気になったものであろう。

奴そんな事は無頓着で、

「へへへ、そりゃ何、そりゃそうですが、じゃお嬢さんは何とおっしゃるんでございますね。」

「お夏さんさ。」

「お夏さん?」

「婀娜な佳いお名だろう。」

「すると姓は何とおっしゃるんで、柳屋は、何でしょう絵草紙屋をなすった時の屋号でしょう。で、何ですか、焼け出されなすってから、そこで、まあ御娼売、」

「御商売?」と聞き直した目の上に、嶮も、ああ今は皺になった。

「深川の方で、ええ、その洲崎の方で、」

女房聞くや否や、ちと高調子に、

「お前、何をいうんだね。」

「だって、おかみさんは何でしょう、弁天町に居たんでしょう。山手だってそのくらいな事は心得てるものがありますぜ、ちゃんと探索が届いてまさ。」

いささか軽んずる色があって、ニヤニヤと頤を撫でる。女房お賤はこれにはびくともせず、自若として、

「ああ、そうさ、私は、そうさ。ちっとね、お客さまをお送り申していたんだがね。落ちたといっちゃ勿体ない、悪所から根を抜いて、お庇さまでこうやって、おもりをしているんだがね。