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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

奴なきお夏さんは、撞木なき時の鐘。涙のない恋、戦争のない歴史、達引きのない江戸児、江戸児のない東京だ。ああ、しかし贅六でも可い、私は基督教を信じても可い。

私が愛吉の尻押しをして、権門に媚びて目録を貪らんがために、社会に階級を設くるために、弟子のお夏さんに、ねえ竹永さん。……

合弟子の、山河内という華族の娘の背を、団扇で煽がせた。婦人じゃ不可ない! その鬱憤を、なり替って晴そうという、愛吉の火に油を灌いで、大の字形に寝込ませた。

ちょうど同じ日に一足後れて、お夏さんを娶ろうという、山の井医学士の親類が、どんな品行だか、内聞、というので、お夏さんの歌の師匠の、根岸の鴨川の処へ出向いたのが間違の因です……

今までそこにふンぞり反って、暴れていた床屋の職人が、その人の使者だというお夏さんを、たとい親だって好くいおうか。

まして、繻子の襟も、前垂も、無体平生から気に入らない、およそ粋というものを、男は掏摸、女は不見転と心得てる、鯰坊主の青くげだ、ねえ竹永さん。

よくも、悪くも、背中に大蛇の刺青があって、白木屋で万引という題を出すと、同氏御裏方、御後室、いずれも鴨川家集の読人だから堪らない。