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しきぶこうじ

式部小路

泉 鏡花

「大阪毎日新聞」1906(明治39)年1月1日~1月27日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 74,847 字 · 149 页

青空文庫

もみじはここも名物だが、ちと遅い。紅は万両、南天の実。鉢物、盆石、水盤などが、霞形に壇に並んだ、広い庭。縁には毛氈を敷いて煙草盆などが出してあり、世界が違ったように、ここは外套やら、洋服やら、束髪やら、腰に瓢箪を提げた、絹のぱっち革足袋の老人も居て、大分の人出。その中にもお夏さんが見えますまい。

はてな、巣鴨の通へ出てしまったか、余り不思議だと思う。生垣の外は、馬士やら、牛士、牛車、からくたと歩行いて、それらしいのもありません。

夢かと思うと、そうじゃない。やっと気が着いた、分らないのも道理こそ。

向うに見える、庭口から巣鴨の通へ出ようとする枝折門に、曳きつけた腕車の傍に、栗梅のお召縮緬の吾妻コオトを着て……いや、着ながらでさ、……立っていたのがお夏さんでね。車は今雇ったのじゃありません、裏道から大廻りに、もみじ邸を卯之吉の木戸まで廻らせて、ここへ待たしてあったんで。コオトなぞも預けてあったものと思われます。で、直ぐに上野へ殺されに行こうとする処だったのです。一体どこで降りましたか、」

これは探訪も知り得なかったのであった。お夏はその日、人知れず、今わのなごりを、浅瀬の石に留めたので。