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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
おまはんみたいな人がよくいう見かけ倒しという代物だ。犬の頭に角が生えても、こんな朴念仁からカビも生えやしねえってことさ」
「いったなッ」
雷横の母親がつねづね心配していたのはつまりこれだったにちがいない。ぐらっと彼のこめかみの辺をいなずまが走ったと感じたときは、もう白玉喬の体などは彼の一拳の下に素ッ飛んでいてそこらには見えもしなかった。そしてただ見る掛小屋じゅうの見物がわアっと総立ちになって沸き、舞台の上の白秀英はといえば、演劇ならぬ悲鳴の演舞をクルクルさせて、下座や楽屋裏の者たちをかなきり声で呼び廻っていた。
木戸の外でも猫の干物と女狐とが掴み合いの一ト幕の事
いつも朝は機嫌もよく二十日鼠みたいにクルクルと小まめな雷横の母であるのに、今朝はどうしたのか、しいんと南廊の小椅子にふさぎこんでいた。――ゆうべおそく泥酔して帰った息子の官服を膝にくりひろげて、泥を払い、ほころびを縫い、またふと、血らしい汚染に老いの目をしばだたいて、
「ああ、あの子はまた何をしたんだろ? ……あんなにまで、かたく、ふッつり禁酒しましたからと、この母へは優しく誓ってくれていた子なのに。