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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

女太夫の白秀英は、小屋前で輿から下りた。それを見ると、さすが人気者の楽屋入り、近所の女子供がわっと周りへたかって来る。――だが秀英はそんな者に見向きもしない。舞台姿とはまた違う艶な装いに脂粉の香を撒きこぼしながら、ツツウと幟竿の下へ歩いて来て、雷横の顔をさも憎しげに睨めすえていた。そしてとつぜん、ホ、ホ、ホ、ホ……と大げさな表情のもとに笑い抜いて、

「ま。これが県の町与力とは呆れたもんだこと! よくもおまえさんゆうべは私の舞台を滅茶滅茶にしてくれたわね。なにさ! その眼つきは。……そんな顔を人が恐がると思ってるのかい。ばかにおしでないよ。根ッからの田舎廻りなら知らぬこと、開封東京の芸人には、おまえさんみたいな三下に小屋を荒らされて、縮み上がってしまうようなお人よしはいませんとさ。ふウん、おかわいそうに」

なるほど美人だ。なるほど、開封ッ子の切れのいい啖呵でもある。知事の古い情婦だというのもこれでは嘘ではないだろう。

雷横はついそんな気もちでじっと女を睨め返していたのだが、秀英にすればその眼光も憎悪の挑戦と受けとれたにちがいない。それに人気者の思い上がりやら、背後には知事がひかえている驕り心も手伝って、