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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
そこが人間のいいところだ。それを義も情も知ッたことじゃねえと吐かしゃあがる。よしっ、人間でねえならば獣だろう。みてやがれ、けだものめ、化けの皮をひン剥いてやるから」
「李逵李逵。いいかげんにしろ。……一清の身にもなってみるがいい。むッそりと顔をしかめているじゃないか」
「ほい。いいお弟子だ。師匠をケナされちゃ癪にもさわろう。だが、こっちの腹もおさまらねえんだ。ごめんなさいよ、公孫勝」
「いやなに、きさまの悪口などいま知ったことじゃないさ。気になどかけるものか。ははははは」
しかし、一清公孫勝の立場はつらい。自然、口かずも少なかった。また戴宗も、このままでは高唐州へ帰りもならず、何かと、思案顔である。――とかくして、その夜は、一清の家の草堂に、床を分けて眠り合った。――眠る前の精進料理と一酌の酒がまわって、三人はやがてぐッすり寝込んだようであったが、かねて思うところのあった李逵は、
「……よし。ちょっくら、いまのうちに」
とばかり室から這い出し、そして二丁斧を手に、風のごとく、峰道から谷、谷から峰のふところへと、馳け躍ッて行った。――それはあたかも一個の黒猿が両手に白い焔を振りかざして行くようだった。