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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
もう勝手は知っている紫虚観の門、松鶴軒の廂。そっと、李逵が法院窓の障子に舌で穴をあけて内を覗いてみると、なんと、この森沈たる深夜なのに、羅真人はなお、椅子に端座したままであり、唇に玉枢宝経を小声で誦している態なのだ。
薫々と匂う糸は香炉のけむりか。二本の赤い絵蝋燭の灯があかあかと白髯の横顔、頬のクボを描いている。李逵はあさはかにも思い込んだものだった。――この糞仙人さえ亡き者にしてしまえば公孫勝もいやとはいわないはずである――と。
だから彼の眼気たるやまさに殺気の炎で、そこの窓障子を蹴やぶるがはやいか、
「けだもの。化ケの皮を剥ぎさらせ!」
と、内へ躍り込んでゆき、かっと、薄刃の斧を振りかざすやいな、羅真人のあたまをめがけ、その脳天から真二つにたちわってしまった。
「はははは。なんてえ応えのねえ化け物だろう。おや、仙人の血は白いのかな? まるでこりゃ水じゃあねえか。うんわかった。ろくな物は食っていず、一ぺんも女を抱いていねえせいだろう。……どれ行くかな」
すると、物音を知ったのか、廊の彼方から、青衣の童子が飛んできて、ひらと彼の前にたちはだかった。