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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「むむ、今となっては、思い出すのも辛くなる」

「もうウロ覚えになってしまいましたが、たしか立派な櫃に入っていたようでしたが」

「羊皮の紅い革櫃だ。縁は雷紋の金箔押し、四方の横にもまた精巧な彩画で、牡丹の花に、毬遊びの獅子がえがいてある……」

「えっ。紅皮に獅子のもようですッて」

「隆さん。なんだって、そんな眼をするんだ」

「だ、だって。この眼を疑わずにゃいられません。ついゆうべ、見たばかりなんで」

「げッ、見た※(感嘆符疑問符、1-8-78) どこで見たのか」

「城外四十里ほどの村の居酒屋でしたっけ。……痩せッぽちの、眼の玉のするどい野郎が、のそっと入って来て、そいつもてまえのいた床几の向う側で、オイ大急ぎで、酒と飯をくれと、せかせか呶鳴っていたんでさ」

「ふむ! そして?」

「見ると、その野郎が、いまいった通りな櫃を側へおいて、後生大事に片肱を乗ッけています。はてな? 風態にも似合わねえ立派な物を……と、ついジロジロ見てたもんですから、奴も気がさしたか、酒も飯もがつがつすまして、すぐ街道を東の方へ急いで行ってしまいましたよ」

「それだ! 隆さん。東へ行ったか」

「それとすりゃあ、しめたもンだ。