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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
にいたことなので、一夕の歓談に一夕を忘れ、またつい、夜を語り明かして飽かない夜が、毎日延々と心にもなくつづいたようなわけだった。
かたがた、宋江や呉用が、あらゆる言辞で、彼の足どめ策を講じていたのもいうまではない。
だが、ひとたび、北京にある留守の妻を思い、ここに潜む魔力みたいなものをかえりみると、
「ああ、これはいかん。わしの意志が弱いのだ。決然と魔魅の袂を払わぬことには」
と、身の在る所にゾッとして、帰心、矢の如きものに襲われもする。――
家を出たのは晩春五月まぢか。いつか、月日は過ぎて、天地は秋の色だった。
そこで彼は、一詩を書いて、宋江にみせた。どうか帰してくれと改まって切に懇願したのである。
晩春 家郷に別れて いま新秋
朝に家を想い 夜には妻を恋う
恨むらく 身に双翼のなきことを
天風よ 吾を憐んで 水涯を渡せ
「いや、このご心情を見てはもう……」と、宋江は言った。
「これ以上は、おひきとめもなりますまい」
最後の大饗宴をひらいて、莫大な金銀を餞別に贈り、翌朝、全山を挙げて、いよいよ彼を送別することになった。
「家に帰れば、不足なき身、おこころざしはいただきますが、金銀財帛はどうぞ、そちらのお手もとに」