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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
この命、こっちもただではくれてやれん」
かねて何ぞの場合にはと、ひそかに買い求めて閻王像の壇下に隠しておいた朱房のついた短槍と短剣。その短剣だけをふところに呑むと、彼は用事をよそおって、ぷいと街へ出ていった。
そして、広くもない滄州の街、やつらの姿を見かけたらただ一突きにと、逆に刺客を狙って、その影を探し求めていた。
数日は、何事もない。相手の危害が見えないのと同時に、彼らの姿にも出会えなかった。
妙なもので、自然、研げていた気もゆるむ。しばらく李小二の店へも寄らなかったが、十日目ごろの午後、ちょっと覗いて、
「変だなあ、あれきりだが?」
と囁くと、夫婦とも、ほっとした顔で、
「それはまあ、なによりでございますよ。このままで何事もなければ……。ま、ひと口、召しあがっていらっしゃいませな」
「そうしようか」
と、久しぶり、一酌して、夕刻前に、営へ帰っていった。
――すると、点視庁からの呼び出しで、
「明日から、刑務場十五里先の東門外にある馬糧廠へ転務を命ずる。起居は中央の飼糧小屋の一つにとること」
という職場がえの命令である。
そこも割りのいい役らしい。飼料の出し入れには袖の下も多いとかで、囚人仲間では、羨望の職場だ。