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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「承知しました。さっそくに移ります」
多くもない荷物を持ち、彼はその夜のうちに、東門外へ引っ越した。折から々たる朔風の唸りが厳冬の闇を翔け、空には白いものが魔の息吹きみたいにちらつきだしていた。
――見れば、荒れ崩れた長い黄土の土塀、曲がりかけた観音開きの木戸。入って、まん中の一番大きなまぐさ小屋が、番人の住む台所付きの建物らしい。
黄ばんだ寒灯の洩れてくるところから、先任の老番人が、彼の跫音に首を出した。
「ほう、おまえかね、こんどのまぐさ番は。昼、わしのほうへも、天王堂の者と入れ代れというお差紙がきていたが」
「やあ、遅く来て申しわけない。食器や雑器など、天王堂へ置き残してきたがらくたもあるが、よかったら使ってください」
「そうかい。ここにも、おらの使っていた酒瓢箪やら、鍋や欠け茶碗なぞもころがってるよ。よかったら使うがいいぜ。それとな、夜具はこの隅に。もっと奥には、あんなに炭俵が山と積んである。なにしろ寒いから、冬中は炉に火は絶やされねえでの」
「買物はどこへ出ますか」
「そうそう、西の藪道を二、三里行くとな、ちょっとした酒屋や肉屋の用は足りる。ただ、馬糧廠は、まぐさ盗ッ人がよく狙うところだから、それだけは用心しなよ」