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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
――途中つつがなく、生辰綱をお送りすれば、それでもう汝の栄達のみちも開けるのではないか。なにを迷うか」
「しかし、長途の道中には、紫金山、二龍山、桃花山、傘蓋山、黄泥岡、白沙塢、野雲渡などという有名な野盗の巣やら賊の出没する難所があります。楊志も犬死にはいたしたくございませんので」
「まだ、のみ込めんのか。軍兵はいくらでも召しつれて行けばいいのだぞ」
「いやいや、たとえ何百の兵でも、一朝、それ賊が現われたぞと聞けば、あらまし木ノ葉の如く逃げ散ッてしまいましょう」
「なにを申す。ではまるで、生辰綱を送るなと、余に諫めているようなものではないか」
「はい。まったくは、切にご諫止申しあげたいところです。しかし今さら、お取り止めもなりますまい。……どうも是非なき次第、楊志も観念して参ることにいたしましょう」
「や。臍を固めて、行くと申すか」
「けれど条件がございます。――物々しき官用の太平車や旗などは廃し、お贈り物は、すべて人の担げるほどな行嚢にあらため、護衛兵の力者もみなただの強力に仕立てなければいけません」
「まるで山東の行商隊だな」
「それです。それがしも一個の隊商の長に化け、なるべく野盗の眼を避けて、お引きうけした以上は、東京の蔡大臣がご門前まで、無事、おとどけ申したい存念にございますれば」