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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「これでわたしが、もう三十も若かったら、あんな人を独り下宿屋などに寝かしちゃおかないんだが……」と口惜しそうに言ったりした。すると王婆はげたげた笑って、
「なんだね、お前さんたら、まだそんな色気があるのかい。婆惜さんというあんな妙齢の娘を持ッてるくせにさ」
「措いとくれよ。この年じゃあ、どう思っても、高嶺の花だぐらいなことがわからないでどうするもンかね。だからもし、押司さんさえよかったら、わたしゃあ娘の婆惜を、あのお方に持っていただきたいと願っているのさ。わからないかえ、それが本心なんだよ」
「ほんにねえ、婆惜さんは十九だっけね。閻婆の娘とは思われないッて誰もいうほど、ひと目見た者はみんな一ト目惚れする縹緻よし。それに芸事といったら、道楽者のおやじさんが可愛がって仕込んだだけに、たいそうなもんだのに」
「それやあお前、こんな山東の田舎とは生れが違うよ。死んだおやじがまだ都の東京で盛んに商売をやっていた時分は、わたしも朝湯寝化粧だったけれど、あの娘も蝶よ花よと小さいときからの芸仕込み。それを色街の姐さん芸者だの料理屋の楼主が惚々と見ては噂して、ずいぶん養女にくれの何のといわれたものさ」