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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「いやいや、本来は貰うべきではないが、ご一同のおこころざし、身に沁みてうれしい余り、一封だけは頂戴したのだ。官の年俸もいただいている身、なに不自由な身でもござらん。あとはお持ち帰りあって、よろしく、おつたえ願いたい」

「それじゃあ、てまえが困ります。ご恩報じの使いとして来て」

「でも、おこころざしは、これで充分いただいたのだから」

「ところが、山寨の内も、王倫が頭だった頃とちがって、掟きびしく、いやしくも、使命をうけて、使いの役を果たせないなンて奴は、仲間の内に、面をおいてはいられません」

「では私から、ご一同へ宛てて、一札、返書をしたためましょう。それならお顔も立とうし、私の心もとどく」

さっそく懐中硯を出して、一文を書いて封じ、なおお互いの消息を、なにくれとなく語りながら、彼も劉唐も、思わずぼうと頬も染まるほど数角の酒をかたむけ合った。

「じゃあ、お名残はつきませんが、山寨でも一同待っておりましょうから、これでお暇を」

二人は、酒店の横の露地を出た。――ちょうど初夏ごろ。宵の月がまんまると、町の屋根の上に出ていた。

「ここからすぐ、山寨へ向けて、お帰りか」