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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「いえ、あのせつ、県の与力の雷横さんと朱同さんにも、蔭ながらお助けをうけたので、ついでにそちらへもちょっと、お礼を言ってこいと申しつかって来ましたんで」
「左様か。礼はよいが、しかし、金などは一切やってくれぬほうがいいな」
「へえ。いけませんかね」
「雷横もいい人物だが、与力のくせに、大酒呑みだ。身不相応な金などは持たせぬほうが当人のためだろう。……かたがた、事件いらい、ここの町には目明しが増員され、わけて他州者にはすぐ犬が尾くぞ、油断はあるまいが、気をつけるがいい」
「ありがとうござんす。ヘンな禍風でも背負った日にゃあ大変だ。さっそくに退散します。どうかまあ、押司さまにはごきげんよう」
いうやいな、劉唐は、范陽笠を眉深にかぶッて、蝙蝠のように、県外の街道へ、消え失せてしまった。
あと見送ってから、宋江は呟いた。「……他人事ではない。危ないのは自分も同様だった。もし、梁山泊の使いと、こっそり出会っていたことなどが、役署の誰かにでも知られた日には……」と、急に宵風も肌にソワソワ刺す心地だった。――で、にわかに足をいそぎかけると、あいにく、辻の出会いがしらに、ばったり、婆惜の親の閻の婆さんにぶつかってしまった。