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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
宋江は絶体絶命、眼も昏むばかりだったが、彼の声を耳にするやいな、われも覚えず脱兎のように逃げて行った。あとも見ずに姿を消す。
だが、承知しないのは婆さんの方である。腰をさすって起き上がるやいな、
「おやっ。おまえは漬物売りの唐牛児だね。そうだ、おまえも下手人の片割れだよ、さあおいで」
「ど、どこへ来いっていうンだよ、どこへでも行ってやるが」
「知れたこと。お役署へさ!」
閻婆は、宋江の身代りに、彼の胸ぐらをつかんだまま、わいわいいって散らかる群集の間を割って、近くの県役署の門内へ入って行った。
知事は“早暁に行われた美人ごろしの事件”と聞いて、さっそく官舎から庁へのぼり、閻婆と唐牛児を白洲にすえて、吟味をひらいた。
知事の時文彬は仰天した。
下手人とみられる宋江は、彼が厚く信頼もし、部下ながら尊敬すら抱いている稀れな良吏である。「……どうして宋江が?」と情けなくもあり、同時に助けてやりたい気もちのほうがいっぱいだった。
そこで彼は、取調べも緩慢に、努めて婆の心をいたわり、なんとか示談の方へ持ちこもうとしたが、婆はもってのほかな形相をすぐ現わして、
「人を殺せば殺されるのがお上の掟。