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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
まだ、駅路も都から遠くないうちは、その後、高の激怒が、官布となって、諸道国々の守護へたいし、罪人王進の逮捕を督すこと頻りであるとも聞えていた。しかし、やがて大陸の渺々たる野路山路は、いつか、旅の母子に、後ろの不安も、思い出せぬほどな遠くにしていた。
「……さて、日も暮れたが、ここは何という村か」
王進は、トボトボと疲れを見せてきた馬をあやして、あちこち、宿をさがし求めた。
「どうも、旅籠はないようですな、母上。あそこの柳圃の奥に、四方築土の門が見えますが、ひとつ、あそこへでも宿をたのんでみましょうか」
「村の大庄屋さまらしいが」
「かまいませんよ。私におまかせ下さい」
柳の一樹に、母の駒をあずけ、王進は門へ入って、一夜の宿をたのんだ。
「お。……えらい荘院(御大家)だな」
よほど、由緒ある旧家とみえる。
背後の岡には、草堂風な一宇が見え、道は楊柳を縫うて隠れ、渓水は落ちて、荘院の庭に一碧の鏡をたたえている。
水に臨んでは、母屋の亭館が建ちならび、山に倚っては、主の書楼が、窓を放って、いましがた、灯を挑げたらしく、新鮮なまたたきを見せていた。
――取次の童は、奥へ入ったまま、なかなか出てこない。