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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

遠くに、たくさんな牛の鳴き声がするし、釜屋や下男の長屋には、炊の煙がさかんで、何百人もの傭人が、がやがやいっているようでもある。いわゆる、負傭鶏犬も食に飽き、富戸は子孫に足り、書庫には万巻の書を蔵す、といったような趣があった。

「……旅のお人。お待たせしました。さあ、どうぞ」

出てきた小僕の姿に。

「や。お泊め下さるとか」

「はい。おあるじへ、老母をつれて行き暮れた旅人ですと、申しあげたら、それはさぞかしお困りであろうと」

「かたじけない。では、ご好意にあまえて」

王進は、外へ馳け出して、すぐ母の手をひいてきた。小僕は、親切に、

「馬は、そのままにしておかっしゃれ。おらが、飼糧をやっておくから」

家の者、みな、その小僕のように、あたたかであった。

湯浴み、食事なども、終ってから、王進は、荘主の太公に会った。折れ頭巾をかぶり、白髯は膝にたれ、道服に似たものを着、柔かそうな革靴をはいている。

「延安へ行かっしゃるお商人と聞いたが、ご老母づれではたいへんじゃな」

「いや、都ではすっかり資本を失いましたので」

「ははは。宿賃がないというご心配じゃろ。それくらいなら泊めはせん」