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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

よだれを垂らして、金蓮をあがめ迎え、朝飯晩飯の支度から使い走りまで自分がやって、

「女房よ、金蓮よ」

と、随喜渇仰の有様なのだ。そこでその妻のろ振りがまた、さあ町じゅうのいい笑い草となった。いや岡焼きも手つだっていよう。寄れば触れば、「あの三寸男が」だの「ちんちくりんのボロ布れが」のと、武大の家には町中の目が見通す節穴でもあるような騒ぎだし、あげくには、

「いやはや、惜しい美肉が、犬コロの口へ落ちたもんさ」

と、囃されたりした。

その漫罵と人々の意地悪さには、さすがの武大も耐えかねた。金蓮をつれて、とうとう生れ故郷を逃げ出し、隣県の紫石街に小世帯を持って、じぶんは毎日、揚げ饅頭を売りに歩いていたものだった。

「ム、そうか。……そいつあ兄さん、俺のいないまに、とんだ苦労をしなすったね。が、まアいいじゃありませんか。そんな別嬪を女房に持ちゃあ一生の得だ。ちっとやそっと世間に妬かれたって仕方がねえや」

「そうだよ、武松。わしもそう思ってな、今じゃ気楽に稼いでいるのさ。女房の金蓮もほんに気だてのいい女でね」

「そりゃお仕合わせだ。嫂さんがそんないいお人なら、いちど会わせておくんなさい」