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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
思いつめると、涙がこぼれ、腹は煮えくりかえってくる。
そうして、浮かない顔は持って帰ったが、しかしその晩、家では彼も、さあらぬ振りして、妻の金蓮にも逆らいなどはしなかった。いや近頃の金蓮には以前のような棘々しい目かどは見えない。さすが心の疚しさに、どこか良人へのとりなしも違っている。その晩とても、わざとらしく、
「どうなすったの、あんた。いやに、むッそり沈んでいて」
と、宵にはもう灯りを消して、武大の寝床へ寄り添って来たりしたが、武大にだって嗅覚はある。その肌には他の男性の香いが感じられ、その唇には空々しい粘液しかないのがわかって、
「なんだか、すこし風邪ぎみなんだよ。からだが懶い……」
と、空寝入りのうちに、独り悶々と、夜明けばかりが味気なく待たれた。
次の日。――風邪気味とはいっても、金蓮は決して「お休みなすっては」とはいわない。彼もまた、期するところがあるので、いつもの蒸籠荷担をかついで、さっさと、家を出かけてしまう。
「……おい武大さん。西門慶があっちへ行くよ。はやく後からついておいで」
午ごろである。
約束の哥が、公園の木陰から手を振った。武大は慌てる。