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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
店を仕舞う。おまけになにしろ、荷を担いでのよたよた歩き。見るまに、※(「軍+おおざと」、第4水準2-90-23)哥の影は見失った。
しかし、方向はわかっているのだ。それにまた、男女の濡れ場を抑えるのが目的だから、そう急いでも、かえってまずい。
一方は、哥。
西門慶が、いつもの俳優頭巾ののっぺり姿で、すうと、王婆の茶店のおくに消え込んだのを見とどけて、
「ちッ。愚図だなあ武大さんときたら。何をまごまごしてるのか」
と、物陰で首を長くしていたが、さて待てど待てど姿は見えない。そのまに、近所の犬が吠えかかってきたので、居たたまれず、往来を斜めに飛び出して、
「やいっ、ばばあ。きのうはよくも、ひどい目にあわせやがったな」
茶店の前に、立ちはだかった。
ちょうど、王婆は奥から店さきへ出たところだった。「……ふ、ふん」と鼻の小皺で笑ったものである。「チビなぞ、相手にしないよ」という無言の返辞であろう。いつもの紡ぎ鞠や糸筥を床几に持ち出し、さも実直そうに手内職などしはじめる。
「つんぼかっ、周旋婆」
「…………」
「盲じゃないぞ、こっちは」
「…………」
「やいっ、なんとかいえ。