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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

そして、その間髪に、逃げようとするのを追って、

「うぬっ」

武松の短剣が彼の脾腹を突き抜けていたかと見えた。

ところが、刹那は逆な危機に変った。身をひねった西門慶の片脚が、予測し得ぬほど長く伸びて、槍のように、武松の顎の下を一蹴したのである。ために、武松はふた足ほどよろめいたが、

「味な真似を」

とばかり、ふたたび三度、短剣の突きをくりかえした。しかし、室内ではあり、足元の悪さに、またしても西門慶の一蹴が成功して、彼の剣は蹴落され、剣は氷片のごとく、欄を越えて、どこかへ素ッ飛んだ。

相手の素手を知ると、西門慶はもう武松を恐れなくなった。また、自己の足業にも自信をもった。だが、これは彼の誤算である。むしろ武松にとっては、素手で組んだほうが始末がいい。いくら西門慶が死にもの狂いになッたところで、しょせん景陽岡の虎ほどなことはない。当然その帰結は、そう長くもない格闘のすえ、勝負の上にあらわれた。――あッ、と天井のへんで西門慶の叫んだ一と声が彼のさいごであったのだ。

武松は、暴れ廻る相手の体を両手で高くさしあげていた。そして往来に面する欄から、

「えいっ、これでもか」