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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

いわれると、ぜひがない。燕順と白面郎が先に立ち、山寨附近の山蔭にある矮虎のねぐらへ彼を案内して行った。

戸を叩くと、内では慌てた気配である、「まずいところへ」と言いたいような王矮虎の面つきだった。彼に挑まれていたところだろう。土間の一隅にしどけない女の姿が簪のない髪をみだして俯っ伏していた。

「…………」

一瞬の気まずい黙し合いのなかにチラと見ると、女は良家の内室らしい白妙の喪服がかえって似合わしく、臙脂白粉気がなくてさえ、なんとも婀娜な艶めきをその姿は描いている。

「もし、そこなご婦人。そう、わななくことはありませんよ。お宅はどこです」

そういう宋江の姿を、女は恐々見上げて、

「親分さま。どうぞお助け下さいまし。……わ、わたくし、清風鎮の長官の家内なのでございますが」

「え。長官のご家内ですって」

「はい。今日の臘日詣りで、母のお墓へ行った帰りなのです。こんなこととは知らず、どんなに良人は案じているかもしれません」

「奇遇ですな。じつは私は、近日その花長官をおやしきへお訪ねして行こうと思っていた者で、ここの賊の頭ではありませぬ」

「いいえ! ……」と、女は急に顔を振った。