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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
行く行く見れば、兵の死骸や黒焦げの男女の死体もころがっている。あきらかにこれは戦の酸鼻であった。秦明は我を忘れて馬にムチをくれ、一気に州城の城門下まで飛ばして行った。そして城壁の下から、
「開門、開門っ。……おれだ、おれだ、城門を開いてくれ」
と、どなった。
「なにっ、秦明が立ち帰ったと」
どよめきの中ではこんな声がして、城壁の墻頭から無数な人間の首が外を覗いた。しかし鉄扉のひらく様子はない。のみならず一声の喇叭がつんざき渡り、鼓楼の太鼓がとどろくと、彼のあたまの上から奉行慕蓉の声が、こう聞えた。
「やあ人非人! むほん人めが! ぬけぬけ開門とは白々しい。またも我れらをあざむくため、その姿をば見せしよな。何条、再びその手に乗ろうか。そこうごくな、引ッとらえて火あぶりの極刑に処してくれん」
秦明は仰天して、上へ哀号した。
「閣下、閣下。何かのお間違いではありませんか。重々不覚は取りましたけれど、むほん人などとは、心外な仰せ」
「だまれ、その甲冑、その二つとない狼牙棒。馬もまたそれだ」
「それがどうしたのですか」
「とぼけおるな。一昨夜の深更、賊兵を指揮して、大胆にも、州城の内外を荒し去った賊の中に、はッきりと、なんじの馬上姿を見た者がある!」