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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
そいつと、身ぐるみの物を合わせれば、おれたち二人が里へ出て小商いをやる資本にはなるッてものだ。しめた、こいつア運が向いて来たのかもしれねえぞ」
ここまで物蔭で聞いていた李逵は、もすこしいわせておく我慢もできず、ついそこから躍り出してこう呶鳴った。
「やい。なにがそんなにありがたい?」
「あっ」
女は、崖の下へ逃げころんでゆき、飛鳥もおろか、すぐ谷川のすそへ見えなくなってしまったが、李逵は、あきらめた風である。――といっても、その血刀は、雫をたらし、李鬼の首は、胴体から五尺も先に飛んで、ころがっていた。
「ふざけやがって」
李逵は、大きな魔の息に変っている。家の中へ入って、二つの行李をひっくり返し、目ぼしい物をふところへねじ込んだあげく、ちょうど炊きあがった釜の飯までたいらげて悠々とそこを立ち去って出たのである。そして、その血ぐさい身なりが、西の麓へぶらぶら降りて行った頃、彼の貧しい生れ故郷百丈村にも、はや遠方此方、幾つもの小さい灯が、ぼやっと、霧の宵闇のうちに滲んでいた。
「ああ、昔のまんまだ。貧乏もそのまんまだ」
李逵は、生れた家の前に佇んだ。赤土の泥小屋、石の破れ囲い、屋根を越すひょろ長い松、何一つ変っていない。