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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

背に老母を負い、星影青い夜を衝いて、またたくまに、隣県との山ざかい、沂嶺のいただきへかかっていた。

「せがれや。……せがれよ」

「どうした? おっかあ」

「く、くるしい。もう、そう馳けんでくれい」

「おう、わるかったな。おれでさえヘトヘトだもの。だが山向うへ越えれば人家もある。人里へ出たら、美味い飯やら汁もたんと食わせて上げるでな」

「水がのみたい。……せがれや、のどが渇いて渇いて。飯よりは、水がほしいだ、水をよ」

「水か」

彼もまた、火みたいに、喉の渇びを覚えていたところである。さっそく大きな平たい青石の上へ、背の老母を下ろして言った。

「おっ母あ、ちょっくら谷へ降りて、竹筒へ水を汲んでくるが、ここから一歩も這い出しなさんなよ。目の見えねえおっかあを、独りぼッちでおいとくのは心配だが、いいかね」

「ああいいよ。……李逵や、ちょっとおまえの手を握らせておくれよ」

「なんだい、あらたまって」

「どうして、わりゃあ、そんな優しい子になったんだか。わしゃ、うれしゅうて」

「よせやい、おっかあ。人が見てねえからいいけれど、こんな不出来な伜の手を取って拝むやつがあるものか。……泣くなんて、縁起でもねえ。