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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「これは、方丈さま。ようこそおせわしいなかを」

「おお、ご隠居か。いつもお変りのうて」

轎の内から立ち出でた主僧は、まだ三十そこそこか。ぷーんと、麝香松子の香が立つ剃りたての青い頭から、色の小白い唇もとすこし下がったところの愛嬌黒子など、尼かとも見紛うばかりな美僧であった。

「さ、どうぞ……、どうぞこなたへ」

「ご隠居。珍らしい物でもありませんが志ばかりです。どうぞ王押司のお供え物に」

「おおこれは、貴重な香苞やら京棗やらで……。石秀さん、さっそくご霊前へ」

「はい、はい。お茶もただいま、いいつけます」

石秀がそれを持って、奥の法要の間へ急ぎかけると、二階の階段から、花兎の刺繍の鞋に、淡紫の裳を曳いた足もとが、音もなく降りて来て。

「あら、秀さん。それいただき物なの」

「義姉さんですか。あちらへもう、ご方丈さまがお越しになっておりますよ」

「いま行くのよ」と、巧雲はどこやら容子が浮々している。法事姿なので、強い色彩や濃粧は嫌っているが、一点の臙脂は唇に濃く、ほんのりと薄化粧を刷いた白珠のおもむきが、むしろ日頃の艶姿よりはなまめかしい。

「どれ。ちょっと見せてよ、それ」