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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「では。……先に石秀が敵地へ探りに入り込んだとき、何の利も得もなく、一夜を親切に匿ってくれた鐘離という老人がある。あの老人を窮民布施の奉行役にして、それをやらせてはどんなものか」
と、さっそく石秀を使いにやり、鐘離をよんで来て、分捕り物分配の任にあたらせた。それもしかしなかなか大仕事だった。何しろ穀物糧米だけでも五十万石の余にのぼる量だった。が、これで独龍岡支配下の何万戸という荘民は、まるで夢みたいなお助けに潤され、かれらはまた、
「できることなら何でも」
と、労力をもって、そのよろこびを、宋江らの義軍にこたえてきた。
かくて、残余の分捕り品輸送なども難なく進み、宋江らの全軍は、ほどなくここを総引きあげに引揚げた。一路、山東梁山泊へと、凱歌に沸く蜿蜒の列を作して――。
ところが、ここにまだ不遇なる賢人が残っていた。
かの撲天の李応である。
彼は、亡び去った祝朝奉家の親戚だ、つまり祝一族の一軒だ。
事の始めに。彼は宗家のためを思い、極力、事を穏便にと、相互のあいだに立っていた。――が、逆に、それが族長の息子どもからは疑われ、以来、門を閉じたきり、今度の騒ぎには全く圏外にいて静かに矢傷の身を療治していたのである。