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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「聞きゃあ東京者ですとさ。別嬪ですぜ。いや何よりは、唄、弾奏、軽い茶番、何をやっても田舎廻りにしちゃあズバ抜けてるんで」
「たいそうな惚れ込み方だな。そんなにいいなら、ぜひおふくろに観せてやりたいもんだ。そのうち弁当でも拵らえて、おふくろと一しょに観に行こうよ」
「……旦那、旦那。あれ、行っちまうんですか。……けッ、よしゃあがれ。捕手の先頭に立つと鬼にも見える雷横だが、へんなものだナ。自分のおふくろには、目も鼻もありゃあしねえ。ふん、つまらねえ人間だよ」
おふくろ思いな雷横だが、老母の眼から見ればこの子にもたった一つ心配はある。悪癖がある。ほかでもない、酒癖がよくないのだ。
「ま。そうクヨクヨ言いなさんなよ、おっ母さん。雷横だって、いつまで心配をかける年頃でもねえさ。ましてや役署勤めの身だ、それに新しい知事さんに代ったから、このさいきっぱり禁酒ときめ、旅先から帰ってからも、杯は手にしたこともねえんだから」
雷横は母へ言っていた。事実、家では飲んでいない。また外でも禁酒を公言していたが、友達はまったく違う。てんで信用してくれないのだ。
その夕も、役署帰りの辻酒屋で、彼はつい悪友どもに飲まされてしまった。