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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
うちで母子顔をつき合わせていたら、きっと、それで終始するのではないでしょうか。生活の習慣というものは可恐ものです。東京の町を歩くのに、小母さまは、いつも我知らず右手を八ツ口から入れて懐手をしてお歩きになる。ころんだらおきられなくてあぶないから手をお出しなさいませ、やかましく私が云う。これは、非常に小さなその癖、生活の根本気分を物語る特長です。面白いでしょう?
十九日までいらっしゃるようになってよいと思います。いやいやいらして、私は気が揉めるが、それでもいいと思う。いやなところを二日も三日もかえりをのばさなければならなかったことも、何かの形でやはり小母さまのお気持に強い印象としてのこされるでしょうから。ああいう思いをした、とお思いになるでしょうから。事がらの重大性がすこしはしみるでしょうから。昔、私がごく小さかったとき、変な菓子があった。多分飴でつくったのですが、電気モーターにかけてフワフワとまるで真綿みたいにフワフワして華やかな色のついた菓子。それはフワフワしているくせに、口へ入れると、細い線のかたさがあって、いやであった。その菓子を思いおこします。