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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
御秘蔵はふだん着て膝がぬけてしまうと残念のようでもあるでしょう。あの着物の襟の合わせめのにおい。あの着物にしかないように思われる。
六つばかりのとき父がイギリスにいて、夏虫干しをしたら父のきていた冬着が出ました。父のにおいがする。お父様の匂いがする。暑い暑いのに、それを着て、泣きねいりをしてしまった。大人になると、そういう感情表現を、物狂わしいと見るのは、何という風俗でしょう。非常に不自由を感じます。着物をいじるごとにそれを感じる。
「仕立屋へはやらないよ、どっち道。又綿をポンポコ入れなければ駄目だから」「私がもっと上手だといいけれど」「又本間さんにたのもう、本当にちゃんとはじめなくちゃ駄目だから」ちゃんと始めるというのは、おひさ君の勉強です。
折角私たちの家にいて、一年いて、何もしない只台所している、それではいけない。何かしたい勉強を考えるようにと云っていたら、小学校教員になりたいということになりました。外の職業で、結婚と妊娠とでこまる例を見ているので。女学校を出ているから、尋常の正教員には何とかしてなれるのです。それで、来年の夏までガン張って実力をつけて、着手するということになりました。