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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
抽象的な云いかたしか出来ないけれども。一からげは大丈夫です。私もこの頃は大分目も指もこまかく働くようになっていて、これは松茸か松だけそっくりだがそうではないとか、大分わかります。
あの小説とは別のこととして、勉強ぶりについていろいろ楽しい期待をもって下さること、よくわかりますし、私も実にその点では云いようのない位、自分にもたのしみです。そのことでは私は自分の最大の貪慾と勤勉とを発露させます。そして長年の友達たちというものもありがたい、誰も皆そういうたのしみは持っていて様々の形で期待して呉れます。私にとって一番こわいのは自分が、わるい作家になるということです。窮局に於て、それよりこわいということは存在しない、と思う。私は作家としての生涯の豊饒なるべき時期にめぐりあった新しい条件を、真の豊饒さのために底の底まで活かすつもりです。充実した時間を送って居ります。きのうからきょう、きょうから明日と、長い見とおしと計画とによって充実した力のむらのない日を送り迎えることはなかなかつくし難い味です。
健ちゃんがそろそろ語学をはじめるらしいが本当にいいことです。語学の実力は小さいときからやったものにはかなわない。