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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
けれども考えて見れば、あの庇云々のことを書いたのは八月下旬で、当時、私は今ほどはっきりと、或点で自分が見落しているもののあったことを、自覚してはいなかったようです。今私にはそれがはっきりわかった。したとか、なったとかいうことの確然たる内容の相異について、初めに書いた、ああいうことにしろ、やっぱり関係があるのです。
私はこのごろいろんなことから、深く感じるのだが、例えばああいう場合、自分の心の中に、もし自分の愛を疑ったりするようなすき間があったり、そして又私に対して抱かれている愛情について不安をもっていたりしたら、きっともっと警戒的で(自身に対して)あったろうと思います。自分の傾けつくしている情、そそがれている心、それらに一点不安をもたず、その裡にこもってしまうようなところがあって、却って受動的な(客観的には)ことになったと思う。そんなこと位で自分たちがどうなるものか。そういうところ。キュリー夫人の科学は云々というのとどっか似ていたと思います。私は決して人生に受け身なたちではない。そのことは確信をもっています。しかしながら、最も積極的な我々の生活に必要なだけの自律性は鍛練され切っていないのだということは認めざるを得ないわけです。