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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
05 一九三八年(昭和十三年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 229,387 字 · 453 页
実にその点では、これまでの自分の生涯に嘗て経験しなかった一喜一憂であり、毎日顔を見るという感性の刺戟が一層それを増し、きのうの顔、きょうの顔、きのうの手紙、きょうの手紙、それらの間に揉まれた。揉まれつつ、やはり根本は大志に根ざしていることは見失えず、従って、非合理な哀訴や悲鳴や涙は、それとして押し出せない。何か耐え難い心であった。
これには、微妙に生活の又ほかの面からの影響とも交錯していると思う。例えば、自分が今書くものを発表出来ない条件にいること。そのため、そういう自身の立場を一人の人にこそ十分に肯定して欲しいと感じている甘えた心。及び、秋ごろ突発的に身辺に生じた紛糾(友人間のこと)で、友情とか善い意志とか或る認識の到達点への信頼とかいうものが、甚しく崩されたこと。それらの悪気流もからんで、感情的に主観的に傾かせた。
自分たちの生活だけは明るさで貫きたい、その希望は正当であるが、姑息に陥って、鼻息をうかがう的になって、却って雲を湧かせることになったのは興味深く、おそろしいところと思う。
段々と環を狭めて行って、更に考えの一つの核が発見されるようになった。