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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

「まあ、ほんとうですの!」

祥子の眼に涙が光った。

五人は、謙一が運転した自動車で、市街の宿に向った。

「そら、すぐそこに高い丘が見えるだろう、あれが肉弾戦で敵から奪った武威山、以前のブキテマの高地だよ、『錫の山』という意味だそうだがね」

平林大尉が、ゴム林の生茂った丘を指さした。

「シンガポールって、思ったより広いところですね」

英夫がいうと、

「ここはもうシンガポールじゃない、昭南島だ」

鳥尾大尉が聞きとがめて訂正した。英夫たちの知らない間にあたらしい日本の名がついていたのだ。

今は昭南島に生れかわったシンガポールの街には、日の丸の旗がビルデングの上に、街の店先に、目にしみるほどあざやかにはためいていた。

サロンを腰に着けたマレー人、ターバンを頭に巻いたインド人、支那服を着た支那人、袖の短いシャツにパンツをはいた西洋人の男や女、海老茶か黒の、つばのないソンコ帽をかぶったマレー人の男の子、水色のスカートに白地のうすいカパヤ(ブラウス)を着た女の子が、今は何事もなかったように街を歩いている。皇軍の兵隊さんが敬礼をかわしながら行きちがって行く。

米英人の足もとにふみにじられていた、ながい年月の悪夢からさめ、日本を盟主として東洋人の東洋を築こうとしている、新らしい昭南島の姿が、生々と感じられるようだった。