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ひきょうのにちりんき

秘境の日輪旗

蘭 郁二郎

「秘境の日輪旗」少年文庫、新正堂、1942(昭和17)年9月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 84,829 字 · 169 页

青空文庫

「今にいやというほどたくさん出くわすから、あまり心配せんでもいいよ、はっはっは」

謙一が笑った。

ゆらり、ゆらりと、紅樹林の葉が、いつの間にか出て来た風にそよぎはじめた。

熱いランプのほやのような青空に、一団の雲が浮び出し、見る見る、暗幕のようにあたりを暗くした。遠く、どこかで、雷の音がしている。

やがて、ぼつりぼつりと大粒の雨あしが河面を掻き立て、紅樹林をもみさわがしたかと思うと、はげしいしわぶきと一緒に大雨がやって来た。

「スコールだ、はやく中へ入らんと、河へ放り出されるぞ!」

謙一が叫んだ。

鉄橋を渡る列車のような轟音を立てて、スコールがやって来た!

それも、しばらくの間で、空はまた、拭ったように晴れ上り、焼くような暑さにかえった。

「おや?」

対岸を見つめていた、英夫が叫んだ。

一台の黒塗りの自動車が、河岸の道を、弾丸のような速力で、上流に走っている。

この辺の両岸は、茫々たる平原で、ところどころに水田や、バナナや椰子の畑、ゴムの林があり、ダイヤ族の住む小さな部落が見えた。

自動車は、その中を縫うように、がむしゃらな速力で走っているのだ。

部落の子供たちが、おどろいて、二十日鼠のように、ちょろちょろと、駈けて来て、見送っているのが、手にとるように見える。