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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

秋の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,435 字 · 329 页

青空文庫

第二百十四 汽車の衛生

と我邦の旅行者は平生最も食物に注意を要す。

第二百十四 汽車の衛生

家にある時はなお食物衛生を守り得べきも旅に出でては四辺皆なこれ危険の分子を含まざるなし。広海子爵は深く中川の説に感じ「なるほどそういう風に自宅からサンドウィッチを拵えて往って外で怪し気なものを食べないようにすれば身体を害する事はありませんね。身体の弱い人はよく旅へ出て病気を惹起します。全く旅先では衛生法を厳守する事が出来ないからですね」中川「さようですとも。今の世中は汽車中の衛生法すら一向行届いておらんから一事一物危険の種とならざるはありません。彼の怪し気なる飲食物は勿論の事、私が汽車に乗って毎度不愉快を感じるのはボーイが客室の中を掃きに来る時です。啖壺が備えてあっても衛生や公徳の何物たるを知らない連中は平気で床の上へ啖を吐いたり、唾を吐いたりして何の心だかわざわざそれを靴の底で摺り拡げています。肺病患者の啖なぞはなるべく一つ処へ纏めておく方が有毒細菌を飛散せしめないのですけれども靴の底で摺り拡げてわざわざ乾燥させてしまいます。乾燥は極くの禁物で乾燥すると細菌が空気中へ舞い上って外の人の鼻や口へ入ります。