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くいどうらく
食道楽
村井 弦斎
秋の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,435 字 · 329 页
第二百七十四 恋愛の害
とかく言われてお登和嬢俄に愁然と差俯きぬ。
第二百七十四 恋愛の害
お登和嬢は頓に答ず、垂たる頭はいよいよ下を向て一雫涙の滴し様子。兄はあながちに深くも咎ず「お登和や、ナニもそう言ったからとて今急に外へお嫁に行けという訳ではないが、万一大原君の婚礼が済んでしまうようだったらばそういう風に覚悟を定めておかねばならんという事だ。若い内はとかく何事も一図に物を思い詰る癖があってそれがために往々正当な判断力を失う。男が女を見ても女が男を見ても何か一つ自分の気に入った点が現れるとその外の事まで何でも良く見えてこの人の外に人がないと思うようになる、それが恋愛という過ちに陥る基だ。それと反対に一点の悪い処を見出すと何でも悪く見えてその人を嫌うようになる。つまり社会の経験が足りないから物の真相を鑑別する事が出来ない。料理の事に譬えてみても物の味を知らない人は一杯五銭か八銭のアイスクリームを食て非常に美味いと感じて天下にこの上のアイスクリームはないと思うだろう。もしもアイスクリームが人であったら生意気な娘はその五銭のアイスクリームに恋愛するかもしれない。後に至ってクリームばかりの一杯五十銭も六十銭もするアイスクリームのある事を知ってその味を試みたらば前のアイスクリームは再び喰べる気にならん。