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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

秋の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,435 字 · 329 页

青空文庫

第二百七十三 家庭の清潔

先年の日清戦争のように勝ってさえ遼東を横取りされるというようなのは最初に善後策を考えておかないからだ。アハハそんな事は和女の身に関係もないが、もしや小山君の尽力その甲斐がなくって大原君がお代さんと婚礼する事に極まったら和女はどういう風に覚悟を定めるね。万一の時のために和女の心をよく聞いておかなければならん」と兄の一言にお登和嬢はハッと思いて頭を下げぬ。

第二百七十三 家庭の清潔

お登和嬢は難問の下に陥れり。この際何と答うべきや。暫く頭を垂れて黙然たりしがややありて顔を揚げ「兄さん、そうなりましたら私は何と致してようございましょう」と先ず兄の心を問う。兄は優しき様子にて「和女がそう素直に出てくれれば私も安心だ。これが生意気な当世風の娘だとこういう場合に直ぐ我儘を言出して、ヤレあの人と婚礼が出来なければ死んでしまうの、一生お嫁に行かないのととんでもない事を言う。それも一時の感情で暫くすると直きにその事を忘れる癖に何ぞというと一生どうするのこうするのと生涯の事を軽々しく断定する。実に思慮のない軽卒な話しだ。中にも自分の我儘から即ち動物性の感情から父兄に隠れて自分の好きな男に思いをかけて、この恋が叶わなければ死ぬといい出すような不所存者もある。