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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

秋の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,435 字 · 329 页

青空文庫

それは何だというと病人の見舞に菓子折を持って行くのだ。先方の病人がどういう種類の病気だかどういう食物が適するのだかという事も知らないで知人親戚が病気だと聞くと、手ブラでも見舞に行けないから何ぞ一つ菓子折を持って行こうと手当り次第な菓子を贈物にする。僕の知った人は病気の時余所からカステラの折を貰った。開いてみるとそのカステラは黴が生えて包紙の裏に知らない人物の名刺があったそうだ。察する所見舞に来た人が外からの到来物を三月も四月も保存しておいて中も検めずにそのまま持って来たのだろう。世中にこれほど不親切な事はあるまいね。何の心で病人の見舞に往くのか、大原君のいわゆる心の礼なぞは到底ないのだね。少し物を考えたら解りそうなものだ。病気といえば何れ身体の工合が悪いのだろう、身体の工合が悪るければ胃腸の働きも充分でないから第一に食物を注意せんければならんと誰にでも察し得られる。そう察したら無闇な菓子折なぞを見舞に遣られるものであるまい。しかるに何処の家へ行てもあるいは病院の病室へ行っても病人の枕元には菓子折が堆い。実に言語同断といわざるを得ん。それも先方の病気を知っていてその病人に適するような食物を自分の家庭で拵えて持って行くのなら格別だけれども、到来物の菓子なぞを病人見舞にするとは不心得にも程のあったものだ。