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くいどうらく

食道楽

村井 弦斎

秋の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 167,435 字 · 329 页

青空文庫

私は今の世人を見るのに用がなくして手車へ乗る人が沢山あります。衛生上から申しても車へ乗るより足で歩いた方が運動になりましょう。運動をして食物を喫すれば味も好し、消化吸収も速です。今のいわゆる紳士輩が車夫に費す金銭を食物に廻したらば中流社会の人でも毎日上等の家庭料理が食べられます。その外酒飲会へ出席するとか、芸者買の招伴をするとか、無用無益な贅沢を廃したらば日本人の富の程度でも随分上等な食物が得られます。つまり家庭料理を進歩させても生活費が増すのでありません。生活費の科目を換えるばかりです。今の世中は紳士たるものがテクテク道を歩いていると外聞が悪いというように申しますがそれは社会が間違っているので、モー少し社会が進歩したら、オヤあの人は急用もないのに車へ乗って身体を搬ばせている、もしや病気になって足が利かないのでないかとこういう風になりましょう。腰に金時計をブラ下げていても家では不衛生的な野蛮的な食物を喫しているといわれたらそれこそ外聞が悪いというようになりましょう。是非ともそういう風にしなければなりません」と夢中で饒舌る間にスープ皿は引込まされて更りの皿が客の前に列び「兄さん鮎の御馳走が冷めてしまいます」