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あらじょたい
日本の文学 9 徳田秋声(一)
徳田 秋声
線上閱讀徳田 秋声《日本の文学 9 徳田秋声(一)(あらじょたい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 346,393 字 · 692 頁
五十五
五十五
向う河岸は静かであった。倉庫で働いている男や、黙って荷積みをしている人夫の姿が、時々お庄の目に侘しく映った。碧黒くおどんだ水には白い建物の影が浸って、荷船が幾個か桟橋際に繋がれてあった。お庄はもう暮が近いと思った。
部屋を掃除してから、雑巾バケツに水を張っていると店頭で事務員と押し問答している、聞きなれぬ声が耳についた。会員から、会費の払い戻し請求を受けているのだということがすぐに解った。台所を働いている母親も、茶の室へ出て、気遣わしそうに店の方へ耳を引き立てていた。勤め人とも商人ともつかぬようなその男は、社主に逢いたいと言って、物慣れぬ事務員を談じつけているらしかった。
「いやだいやだ、叔父さんは……。」と、お庄はこの前のことを思い出した。
「だって叔父さんが一人で引き被るわけのものでもあるまいがね。」と、母親も台所の隅に突っ立って溜息を吐いていた。
お庄は、この家をいつ引き払うことになるか解らないと思った。拭き掃除をする気にもなれなかった。そしてバケツをそこへ投り出したまま、うんざりしていた。
叔父は出て行ったきり、二、三日家へ寄りつきもしなかった。