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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
縛り笛
一
晩春なので、風はぬるくて。――
熊笹や、藤づるや、道の辺りは、霧の巣だった。人里から遠ざかるほど、山は、宵に一雨かぶったように濡れていた。
「暢気だのう、お通さん」
竹杖に差した荷物の先を担いで歩きながら、沢庵がいう。
お通は、後を担って、
「ちっとも、暢気なものですか。一体、どこまで行くおつもり?」
「そうさな……」
と、沢庵の返辞は心ぼそい。
「ま、も少し歩こう」
「歩くのはかまわないけど」
「くたびれたか」
「いいえ」
肩が痛むとみえ、お通は、時々、右の肩から左の肩へ、杖をかえて、
「誰にも会いませんね」
「きょうは、どじょう髯の大将、一日寺にいなかったから、山狩の者を、残らず里へ引き揚げて、約束の三日を、見物している肚だろうよ」
「いったい、沢庵さんは、あんなことをいっちまって、どうして武蔵さんを捕まえますか」
「出て来るよ、そのうちに」
「出て来たって、あの人は、平常でもとても強い男です。それに、山狩の者に囲まれて、もう死にもの狂いでいるでしょう。悪鬼というのは、今の武蔵さんのことだと思います。考えても、わたしは脚がふるえてくる」
「ホラ……その脚もと」
「嫌ッ。