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みやもとむさし
宮本武蔵(一)
吉川 英治
Read 宮本武蔵(一) (みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 231,525 characters · 463 screens
三
武蔵は、それから、
剣とこの社会と。
剣と人生と。
何でも、自分の志す兵法に自分の若い夢を結びつけて、恍惚と、思い耽っていた。
すると、先刻の木像蟹のような駕かきが、再び崖の下に、顔を見せ、
「や。あそこにいやがる」
と、竹杖で、武蔵の顔を指した。
三
武蔵は、崖の下をにらみつけた。
駕かきの群れは、下で――
「おや、睨めつけやがった」
「歩きだしたぞ」
と、騒ぐ。
ぞろぞろ崖を這って尾いて来るし、気にしまいとして、歩み出せば、前にも同類らしい者が、腕ぐみしたり、竹杖をついたり、遠巻きに立ちふさぐ形をとる。
武蔵は足をとめた。
「…………」
彼が、振向くと、駕かきの群れも足をとめ、そして、白い歯を剥いて、
「あれ見や、額なんか見ていやがる」
と笑う。
本願堂の階前に立って武蔵は、そこの古びた棟木に懸かっている額を仰いでいるのである。
不愉快だ、よほど、大声で一つ呶鳴ってやろうかとは思うが、駕かきを相手にしてもつまらないし、何か間違いならそのうちに散ってしまうであろうと怺えて、懸額の「本願」の二文字を、なお、じっと仰いでいると、
「あ。――お出でなすった」
「ご隠居様がお見えだ」